作家別作品集
篠田節子


略歴
東京都生まれ。東京学芸大学卒業。

1990年「絹の変容」で第三回小説すばる新人賞を受賞。

97年『ゴサインタン』で第10回山本周五郎賞を受賞。

同年『女たちのジハード』で第117回直木賞を受賞


お勧め度 内容・収録作品
天窓のある家 ☆☆☆
「友と豆腐とベーゼンドルファー」「パラサイト」「手帳」「天窓のある家」「世紀頭の病」「誕生」「果実」「野犬狩り」「密会」表題作など,9編の短編集。どれも篠田節子らしい面白さがある。ひたすら家族のために一円のお金も無駄にしないでがんばっている私の気も知らないで、見栄を張る夫。自分のすべてを犠牲に仕事をしてきたキャリアウーマンへのきつ〜〜いしっぺ返し。おいしいところだけをつまみ食いしながら許せない生き方をしている友人が、とどのつまりは自分よりよほどまっとうに幸せになっていく、友人に対する羨望。自由奔放に生きる、「三十過ぎたらばばあ」と舐めた口の聴き方をする女たちへの天誅。などなど。かなり面白い短編集でした。私は「友と豆腐とベーゼンドルファー」「手帳」が面白かった
女たちのジハード ☆☆☆
保険会社に勤める異なるタイプの女性たち。結婚、仕事、生き方に迷い、挫折を経験しながらも、たくましく幸せを求めてゆく。現代OL道を生き生きと描く、(出版社/著者の内容紹介から)第117回直木賞受賞作。ドラマにもなったが、読み応え十分。
百年の恋 ☆☆☆
NHKで11時からドラマをやっていましたが、原作を同僚から「お勧め」といわれて借りました。
テレビより面白い。一部のすきもない外資系のバリバリキャリアウーマンがさえないSF系翻訳や科学雑誌系のライターと結婚。主人公はこのライター君。
驚くべき新婚生活と子育ての顛末。働く女性にとっては共感。切なく、ほろりとするライター君の独白。面白かった。
長女たち ☆☆☆
痴呆が始まった母のせいで恋人と別れ、仕事も辞めた直美。父を孤独死させた悔恨から抜け出せない頼子。糖尿病の母に腎臓を差し出すべきか悩む慧子……当てにするための長女と、慈しむための他の兄妹。それでも長女は、親の呪縛から逃れられない。親の変容と介護に振り回される女たちの苦悩と、失われない希望を描く連作小説。自分も長女として親の介護に振り回された経験があるので感情移入して読めた。
秋の花火 ☆☆☆
彼の抱えた悲しみが、今、私の皮膚に伝わり、体の奥深くに染み込んできた―。人生の秋を迎えた中年の男と女が、生と死を見すえつつ、深く静かに心を通わせる。閉塞した日常に訪れる転機を、繊細な筆致で描く短篇集。表題作のほか、「観覧車」「ソリスト」「灯油の尽きるとき」「戦争の鴨たち」を収録。
銀婚式 ☆☆☆
壊れてゆく家庭、会社の倒産、倒壊するツイン・タワー、親友の死……望んでもいなかった<人生の第2幕>「男の本分は仕事」。それは幸せな人生ですか? 歳月を経て、夫婦がたどり着いた場所。働くとは。結婚とは。幸福とは。直木賞作家が描き出す、激動する時代の「家族」の物語。
野心や出世のためというより、責任感と義務感で仕事をする。そんな普通のサラリーマンが今の時代は貧乏くじを引く。
やりきれない現実の中で、どのようにして人生を立て直し、切り開いていくのか。最後に救われるのは――
現代日本人の生き方を問う、著者ひさびさの“直球”ともいえる、傑作長編小説が登場。
期待しなかったが意外に面白かった。淡々と進みながら、家族や親の介護、妻との関係など、男性視点で書かれているところ。が新鮮に感じた。

夏の災厄 ☆☆☆

平凡な郊外の町に、災いは舞い降りた。熱に浮かされ、痙攣を起こしながら倒れる住民が続出、日本脳炎と診断された。撲滅されたはずの伝染病がなぜ今頃蔓延するのか?保健センターの職員による感染防止と原因究明は、後手にまわる行政の対応や大学病院の圧力に難航。その間にもウイルスは住人の肉体と精神を蝕み続け―。篠田節子お得意のパンデミック・ミステリ!、20年も前から現代生活の脆さに警鐘を鳴らしていたのですね。

仮想儀礼 ☆☆☆
ゲーム作家に憧れて職を失なった正彦は、桐生慧海と名乗って、同じく失業者の矢口と共に金儲け目当ての教団「聖泉真法会」を創設する。悩める女たちの避難場所に過ぎなかった集まりは、インターネットを背景に勢力を拡大するが、営利や売名目的の人間たちの介入によって、巨額の金銭授受、仏像や不動産をめぐる詐欺、信者の暴力事件、そして殺人など続発するトラブルに翻弄される。ゲームのために構築された世界が新興宗教のもとになり、それがどんどん広がり、制御できなくなっていく様子が、実に面白く描かれている。イエスの箱舟や、足裏信仰などの新聞記事が頭をよぎる。
スターバトマーテル ☆☆☆
乳癌を機に生と死を見つめるようになった彩子。中学時代の同級生・光洋と30年ぶりに再会した彩子は、心の奥底にしまっていた哀しくほろ苦い「過去」を思い出す…。40代女性の“静かな哀しみ”を丁寧に描いた表題作のほか、海外での友人の結婚式の騒動を描いた痛快コメディー作品「エメラルドアイランド」も収録。芸術選奨文部科学大臣賞受賞作品。

静かな黄昏の国 ☆☆☆
「ようこそ森の国、リゾートピア・ムツへ―」化学物質に汚染され、もはや草木も生えなくなった老小国・日本。国も命もゆっくりと確実に朽ちていく中、葉月夫妻が終のすみかとして選んだのは死さえも漂白し無機質化する不気味な施設だった…。これは悪夢なのか、それとも現代の黙示録か―。知らず知らず“原発”に蝕まれていく生を描き、おそるべき世界の兆しを告げる戦慄の書。3.11後、著者自身による2012年版補遺収録。環境汚染による世界の崩壊。篠田お得意の分野だ。

砂漠の船 ☆☆☆
母親は出稼ぎから帰ってきて自殺した。子供の頃に大切な家族を失った幹郎は今、東京郊外で地域社会に根ざした家庭を築こうと固く心に誓っている。だが、そんな幹郎の想いをよそに、妻も娘もそれぞれの世界を築いてゆき、家庭に亀裂が生じはじめる…。経済発展に向けてひた走ってきた日本社会の歪みを、ある一家の崩壊を通して描ききった現代家族小説の白眉。

転生 ☆☆☆
謎の死から十数年、チベット・タシルンポ寺院霊塔で、突如金色のミイラ、パンチェンラマ十世が甦った。中国政府に虐げられたチベット人民は救いを求めるが、肝心のラマは食べ物と女にうつつを抜かし、かつての高僧とは別人のよう。寺院の小僧・ロプサンは、何の因果かラマのインド亡命という危険な旅に付き合うはめになって…。ばかばかしい展開だとは思いながら、引き込まれる。

コミュニティー ☆☆☆
欲望、妬み…、ふとしたきっかけで、自分の中に潜む闇が表出し、人生が思わぬ方向に転がりはじめる。日常を突き詰めて、あぶり出される恐怖、奇妙さ、甘美を多彩に紡ぐ短編集。不況のあおりをうけて、引越した団地での人間関係の濃さに戸惑う家族を描く表題作「コミュニティ」、大人の恋愛の切なさを美しく綴る「夜のジンファンデル」などデビュー当時から約10年間に発表された作品を収録。

ロズウェルなんか知らない ☆☆
UFOで町おこし!?過疎の町を再生しようと悪戦苦闘する元若者たちが仕掛けた策とは…?地方の未来を真面目にわらう!!ときに愚かしくも愛しい“人間”を描く、最近の地方創生町おこしに苦闘する村人たちが最後にはいとおしくなる。

アクアリウム ☆☆
遭難したダイビング仲間を探すため、奥多摩の地底湖に潜った正人は複雑に枝分かれした水中洞窟に迷い込む。命綱は切れて酸素の残りもわずか。死を覚悟した正人を出口へと導いたのは、直接頭に入り込んできた“彼女”だった。体の奥に響く衝撃とともに浮かぶイメージ。あれは一体何だったのか。正体を明らかにしようと再び正人はその地へと向かう――。あまり面白くなかった。私は社会を考察するような内容のほうが好きだ

斉藤家の核弾頭 ☆☆☆
「国家主義カースト制」によって超管理社会となった2075年の東京。政府の謀略により長年住み慣れた家からの立ち退きを強制された斎藤家は、理不尽な転居命令に抵抗し、近隣住民とともに手製の核爆弾を武器に日本国に宣戦布告する。(本の裏表紙より)。予想外の展開で面白かった。

ゴサインタン ☆☆☆
豪農の跡取り、結木輝和はネパール人のカルバナと結婚したが、両親が相次いで死に、妻の奇異な行動で全財産を失う。怒り、悲しみ、恐れ、絶望…揺れ動き、さまよいながら、失踪した妻を探して辿り着いた場所は神の山ゴサインタンの麓だった。(出版社/著者の内容紹介から)第10回山本周五郎賞受賞作。意外な展開でおもしろい。新興宗教はこういう形で発生するのか。

死神 ☆☆☆☆


アルコール中毒、麻薬、母子家庭…。病んだ現代社会の底辺で、真の救いを求めて生きる人々と、ともに悩み、苦しみ、成長するケースワーカーの姿を描く
(出版社/著者の内容紹介から。)これはお勧め。どれもこれもさすが篠田です。「しだれ梅の下」「花道」「七人の敵」「選手交替」「失われた二本の指へ」「緋の襦袢」「死神」「ファンタジア」

神鳥ーイビス ☆☆
夭逝した明治の日本画家・河野珠枝の「朱鷺飛来図」。死の直前に描かれたこの幻想画の、妖しい魅力に魅せられた女性イラストレーターとバイオレンス作家の男女コンビ。画に隠された謎を探りだそうと珠枝の足跡を追って佐渡から奥多摩へ。そして、ふたりが山中で遭遇したのは時空を超えた異形の恐怖世界だった。
(出版社/著者の内容紹介から)
ホラーとしては異色。篠田を全部という人にはまあまあか。

聖域 ☆☆
関わった者たちを破滅へ導くという未完の原稿「聖域」。1人の文芸編集者が偶然見つけるが、得体の知れぬ魅力を秘めた世界へ引きずりこまれる。この小説を完成させようと、失踪した女流作家・水名川泉(みながわせん)の行方を捜し求めるその男は、「聖域」の舞台である東北へ辿りつく。(出版社/著者の内容紹介から)

絹の変容 ☆☆
レーザーディスクのように輝く絹織物―。偶然、不思議な糸を吐く野蚕を発見した長谷康貴は、その魅力に憑かれ、バイオ・テクノロジー技術者・有田芳乃の協力で、蚕を繁殖させようとする。事業は成功したように見えたが、意外なパニックがまき起こる…。ミステリータッチのSF。第3回小説すばる新人賞受賞作品。(出版社/著者の内容紹介から)
どうということのない展開。

カノン ☆☆
学生時代の恋人が自殺する瞬間迄弾いていたバッハのカノン。そのテープを手にした夜から、音楽教師・瑞穂の周りで奇怪な事件がくり返し起こり、日常生活が軋み始める。失われた二十年の歳月を超えて託された彼の死のメッセージ。(出版社/著者の内容紹介から)大して面白くなかった。

家鳴り ☆☆
「幻の穀物危機」「やどかり」「操作手」「春の便り」「家鳴り」「水球」「青らむ空のうつろの中に」篠田的ホラー、ちょっとザラッとする感触のものばかりです。